『ゲイルズバーグの春を愛す』ジャック・フィニイ 福島正実@訳
由緒ある静かな街ゲイルズバーグに近代化の波が押し寄せる時、奇妙な事件が起こる……古く美しいものを破壊する“現実”を阻止する“過去”の不思議な力を描いた表題作他、骨董品の机の中にしまいこまれていた手紙が取り結ぶ、現代の青年とヴィクトリア朝期の乙女とのラブ・ロマンスを綴った「愛の手紙」など、甘く、せつなく、ホロ苦い物語の数々を、ファンタジイ界の第一人者がノスタルジックな旋律にのせて語る短編集
裏表紙 あらすじより
ゲイルズバーグの春を愛す
I Love Galesburg In the Spring-time
Jack Finney
ゲイルズバーグの春を愛す:どんな話?
街に新しい工場を建てようとやってきた実業家のE・V・マーシュは、街の有力者との話し合いの後、一人で夜の街を散歩していた。
考え事をしていて遠くまで来たマーシュ氏は市電(路面電車)がやってくるのに気づき、それに乗ってホテルに戻ろうと、軌道の脇まで近づいて手を振る。
しかし市電は速度を落とそうとせず、危うく轢かれそうになったマシュー氏は道路にひっくり返ってホコリまみれになってしまう。乗車拒否に怒ったマシュー氏は大声で悪態をつき大騒ぎ。
警察に連行され、<泥酔および風紀紊乱>罪で留置所に入れられてしまう。
酔ってないと言っても、市電は何年も前に廃止されていて、身元引受を頼んだ町の有力者にも腹の中で笑われていると思ったマシュー氏は、面目を失ってゲイルズバーグから撤退を決めた。
他にも、空き家になって不動産屋が持て余していた古い大きな屋敷のボヤを、四頭立ての消防馬車に乗った古めかしい口髭の消防士たちがやってきてあっという間に消火した話など、新聞記者のオスカーは街の中で不思議な話を聞く。
街の「過去」が「現在」に抵抗するノスタルジックファンタジー 。
ゲイルズバーグはどんな街?
ゲイルズバーグ市はイリノイ州にある街です。
ノックス大学が街の中央にあり、かつてリンカーン・ダグラス論争の5回目が開催された街。
反奴隷制度の団体が州内で一番最初に作られた街でもあり、黒人奴隷を南部から北部に逃がす秘密結社「地下鉄道」の中継地になっていて、奴隷解放運動や鉄道と縁深い街のようです。
著者のジャック・フィニイはイリノイ州のミルウォーキーで生まれ、ノックス大学を1934年に卒業し、その後結婚してニューヨークの広告代理店に勤めていたようです。
かつて暮らしたゲイルズバーグの街を懐かしみ、小説家になった時に小説の舞台に選んだのでしょう。
イリノイ州は大都市 シカゴを抱える州で、作中ではゲイルズバーグにもシカゴの会社や不動産屋がやってきて開発をしようとしています。
1960年に発表された本作の主人公オスカー・マンハイムの思い出話として、20年前(?)に初めて来たゲイルズバーグは、1880~1900年代初期の平和な時代に建てられた建物やレンガ舗装の道路、馬車の発着のための石の踏み台などが残る街だったようです。
この本の表紙に描かれているのがゲイルズバーグの当時の街並みだと思われます。
「愛の手紙」のイラストでした。街並みは建物は1880年代のものですので、ゲイルズバーグの街並みも同じだと思います。
残念ながらGoogleストリートビューを見ると2011年には道路はコンクリートやアスファルト舗装されていて、多くの建物が新しいものになっています。
ゲイルズバーグの春を愛す:タイムトラベルの種類
街の“過去”が“現在”に介入する「地霊型」になるのかな。
開発や変化を嫌う土地の意思のようなものが余所者を排除したり、災害から街を守ったりするおとぎ話のような形
ゲイルズバーグの春を愛す:まとめ
- 街の“過去”が近代化に抵抗するノスタルジックなファンタジー短編小説
- 昔のゲイルズバーグの街並みや、街を囲むの自然への郷愁
何度も文庫本が増版・再販されているので入手しやすい短編集です。
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