タイムトラベルの本棚

タイムトラベルを題材とした小説、映画の感想

『リセット』北村薫

  また、会えたね」。昭和二十年五月、神戸。疎開を前に夢中で訪ねたわたしを、あの人は黄金色の入り日のなかで、穏やかに見つめてこういいました。六年半前、あの人が選んだ言葉で通った心。以来、遠く近く求めあってきた魂。だけど、その翌日こそ二人の過酷な運命の始まりの日だったf:id:kei300509:20180515214415p:plain流れる二つの≪時≫は巡り合い、もつれ合って、個の哀しみを超え、生命と生命を繋ぎ、奇跡を、呼ぶ。

 

裏表紙 あらすじより

 

 

リセット:どんな話?

主人公の水原真澄は3歳の時に1933年の獅子座流星群を見たのを覚えている。

父の勤めていた≪六甲ハミガキ≫という会社が神戸が本店で横浜に支店があり、幼い頃は横浜の保土ヶ谷に住んでいました。

 

小学校三年の時に、父の仕事で横浜から本店がある神戸に引っ越します。

 

関東で実績を残した父は神戸本社に凱旋すると芦屋の高台に家を買います。

芦屋には≪六甲ハミガキ≫の社主、田所さんもお屋敷を持っていました。

 

同い年の田所八千代さん(顔が角ばっている)と親しく交流していた真澄は、お正月に田所のお宅にお呼ばれをしました。

都合がつかず、来たのは真澄とやはり同い年の弥生原優子さんの二人だけ。

雑誌「少女の友」の付録についてきた「啄木かるた」を3人で遊びますが、途中で八千代さんが読み手として従兄弟の結城修一さんを連れてきました。

 

かるたの後、星の話になり真澄は獅子座の流星群を3歳の時に見たと話します。

修一は「起こしてもらえて、よかったね」と言い、自分の最初に残る記憶を肯定して貰えて真澄は嬉しくなります。

 

獅子座流星群は33年ごと。

次は1966年。

 

あとで修一が貸してくれた「愛の一家」はドイツの小説で、真澄が見た前の獅子座流星群の話が出てきます。

 

それから東京オリンピックは中止になり、太平洋戦争が始まり、戦争は激化していきます。

 

イタリアもドイツも降伏し、本土爆撃が激しさを増す頃、真澄の父が結核にかかり母の故郷の若狭に疎開する事になります。

 

B29の工場爆撃の噂もあり、慌ただしくなった工場で真澄は廃材からフライ返しを作り、修一に渡します。

修一は「田舎の食卓」という詩集を真澄に貸します。

本に「デン・イェーダー・フリューリング・ハット・ヌーァ・アイネン・マイ」と書いた紙を挟んで。

父に意味を聞くと、映画「会議は踊る」の歌で、≪  だって、春に五月は一度しか来ないだろう≫という意味だそうです。

 

翌日、真澄と修一がいた飛空艇の工場にもB29が現れました。

 

 

リセット:面白かったところ

 三部構成になっていて、

第一部は水原真澄の目を通した太平洋戦争。

第二部は村上和彦という戦後生まれの男性の若い頃の思い出

第三部は再び水原真澄の目線から村上和彦の目線へ。

 

第一部の戦中の話は、当時の文化やその規制、食糧事情、戦況への反応、当時の本土にいた人たちの考え方などが細かく描写されていると思います。

第二部はテープレコーダーに吹き込まれた回想で、戦後の一般家庭(教師と専業主婦とやんちゃな小学生男子)の様子が語られます。

第三部は後日談のような話。

 

伏線回収も素晴らしく読後感がよい作品です。

 

リセット:タイムトラベルの種類

 

前世の記憶を持ちながら何かのきっかけで思い出す「輪廻転生型」

 

 

リセット:まとめ

 

  1. 輪廻転生型タイムトラベルのラブロマンス小説
  2. 巻末の参考文献のリストが象徴するように、戦時中の日常描写が緻密

 

 

 

関連作品:北村薫≪時の人≫三部作

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