『夢の10セント銀貨』ジャック・フィニイ 山田順子@訳
会社では上司に罵られ、家に帰れば妻がヒステリックにわめき散らす。そんな平凡な毎日を送っていたベンは、突然別世界へ 新聞スタンドでもらったつり銭の中に魔法のコインが混っていたのだ。
街並みや人々はいつもと変わらないのに、彼はいつのまにやら有能な社員、おまけに家では、妻だと名乗る見知らぬ美女が彼の帰りを待っていた。何もかもが素晴らしいこの別世界で、ベンは今度こそ幸運をつかめると思ったが……?<ノスタルジックなもの>と<幻想世界>を、執拗に描きつづけるファンタジイ界の巨匠が、人生の哀歓をユーモラスに綴る!
裏表紙 あらすじより
夢の10セント銀貨
THE WOODROW WILSON DIME
Jack Finney
1968年発表。
短編集『ゲイルズバーグの春を愛す』と長編小説『ふりだしに戻る』の間に出版された218ページの中編小説。
1993年には宝塚歌劇団月組のレビューの原作にもなっているようです。
夢の10セント銀貨:どんな話?
結婚して数年、夫婦仲があまりよくないベンとヘティの夫婦。
ニューヨークの狭い安アパートに住み、面白くない仕事をし、夫婦仲を取り繕いながらもお互いに興味を無くし、相手の話に適当に相槌をうつだけの上辺だけのつまらない夫婦生活。
金曜日の夜、ベンがポケットの小銭を調べていると不思議なコインを見つけた。
それは普通のルーズベルト(第32代アメリカ合衆国大統領)のダイム(10セント銀貨)ではなく、1958年鋳造のウッドロー・ウィルソン(第28代アメリカ合衆国大統領)のダイムでした。
月曜日の仕事帰り、ベンはいつものように新聞スタンドで新聞を買う。
その時、ベンがスタンドに置いた10セント銀貨は、ウィルソン・ダイムだった。
信号待ちをしていると、街を走っている車の様子が何かおかしい。
何年も前に生産が終わって、新型が出ていないピアス・アローの新車がたくさん走っている。
警官の帽子のデザインも違っていて、振り返ると自分の会社が入っているクライスラー・ビルが消えていた。
アパートに戻って集合ポストを見ても自分の名前が無い。
電話帳から自分の名前を調べて、高級アパートにいくと綺麗な妻・テシーが待っていた。
不思議な10セント銀貨を手に入れた事で、現実の世界から理想の世界に入り込んだ男。
果たして新しい世界で思い通りの幸せを掴めるのか。
夢の10セント銀貨:面白かったところ
序盤はミュージカル風の小説。ちょっと…いや、かなり読み難い。
毎朝鏡に話しかけて鏡の精(妄想)に“敗残者”の烙印を押されたり、街行く人に次々に陽気に話しかけたり、落書きを会社のコピー機で印刷して窓からばらまいたり、現実と妄想が入り混じった描写が続きます。
新聞を毎日買うのに読んでないし、会社に平日毎日通勤してますが、だいたい落書きしてコピーして踊ってる間に退勤時間になるので仕事の内容は不明です。
ロバート・A・ハインラインの『夏への扉』でもありましたが、ジュードーで気に入らない人をやっつけようとします。
ジュードー・チョップという謎の技を使おうとしてるところを見ると空手と柔道などの白道着を着る武術が色々ごちゃまぜになって「ジュードー」と言う武術になっているようです。
1950年代~60年代って、アメリカでは謎柔道が人気だったんですかね。
話は218頁中170頁を過ぎたあたりから、面白くなってきます。
ベンの非常識な行動ばかりが目立って、小学校4年からの友人だったカスターが気の毒でしたが、急にカスターが悪役になる怒涛の“転”。
ミュージカル風コメディ映画としてちゃんと脚本つくれば、面白くはなりそうという感じの小説です。
人によって合う合わないはあると思いますが、フィニイのこれまでの小説を期待して読んだので終盤まで主人公に感情移入できなかったです。
終盤にカスター邸に忍び込む展開があるんですが、そこで主人公ベンが変装したのが、カスターの飼っているセントバーナード犬。まんまと居間に忍び込み交渉の様子を盗み聞きしますが……骨格的に無理だと思います。
夢の10セント銀貨:タイムトラベルの種類
ダイム(10セント銀貨)と新聞スタンドを媒介とした平行世界への移動です
タイムトラベルとは言い難いですが、平行世界の歴史と現実世界の歴史が異なっているため、
平行世界ではジッパーが無い、セブンアップが無い、ホンダ(バイク)が無い、嵐が丘が無いなど異なった歴史が流れています。
それをベンはタイムトラベラーよろしく、特許申請したり企業へプレゼンしたりします。
夢の10セント銀貨:まとめ
- 現実世界と理想の平行世界(歴史の流れが異なる)との行き来
- ミュージカル風コメディ小説
- 主人公が何の仕事をしているのかわからない
- YMCAに6フィートのベットを置くにはL字型にしなければいけない
- 犬の着ぐるみに入って潜入成功とか無理矢理な展開
倦怠期夫婦の旦那がパラレルワールドで理想の生活をしてみたが
現実世界の妻が詐欺師のような旧友と結婚することになり、現実世界と平行世界を行き来しながら必死で結婚を阻止する話。
途中から理想の妻テシーの存在が主人公の中で完全に消えてしまった。
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