『ふりだしに戻る』ジャック・フィニイ 福島正実@訳
女ともだちの養父の自殺現場に残された一通の青い手紙。その謎の手紙は90年前、ニューヨークで投函されたものだった。
ぼく、サイモン・モーリーはニューヨーク暮らしにすこしうんざりしはじめていた。そんなある昼下がり、政府の秘密プロジェクトの一員だと名のる男が、ぼくを訪ねてきた。プロジェクトの目論みは、選ばれた現代人を、「過去」のある時代に送り込むことであり、ぼくがその候補にあげられているというのだ。ぼくは青い手紙に秘められた謎を解きたくて「過去」へ旅立つ。
鬼才ジャック・フィニイが描く幻の名作。20年の歳月を超えてふたたび甦る。
上巻 裏表紙 あらすじより
ふりだしに戻る
TIME AND AGAIN
Jack Finney
*角川文庫裏表紙のあらすじには「女ともだちの養父の自殺現場に~」とあるが、「女ともだちの養父の父の自殺現場に~」が正しい。
ふりだしに戻る:どんな話?
1970年のニューヨーク。
広告代理店でイラストの仕事をしているサイモン・モーリー(サイ)、28歳。
いつもの退屈な仕事の日々は、突然訪ねてきたルーベン・プライアン(ルーブ)の誘いによって一変する。
ルーブは徴兵検査の資料などから、ある計画の有力な候補者としてサイがピックアップされた事を告げる。
それは50人規模の小さな国家プロジェクトだが、実現すれば宇宙開発にもひけをとらないものだという。
サイがプロジェクトのテストを受けに向かった、マンハッタンの古いビルの地下には、1926年9月のヴァーモント州ウィンフィールドの住宅街の精巧なセットが作られた区画があり、モンタナのクロウ・インディアンのセットが作られた区画があった。
このプロジェクトの目的は過去のある時代に現代の人間を送り込む事だった。
サイは女友達ケイトから聞いた、養父の父の自殺現場に残された青い封筒の謎を突き止めるため、1880年のニューヨークへ旅立つ。
ふりだしに戻る:面白かったところ
小説の舞台
前作の短編集『ゲイルズバーグの春を愛す』から8年後に発表された作品。
訳者の解説によると、短編『愛の手紙』でニューヨークの歴史を調べているうちに、長編を書きたくなったのではないか、との事です。
作中でも1880年当時の写真やイラストなどが挿入され、建物の配置や乗合馬車のルート、当時の天候、新聞のニュース、ファッションなど事細かな描写が重ねられています。
上下巻で700ページくらいですが、情報量が多く、日本人に馴染みのない事件やニューヨークの地理情報なども出て来るので読み進めるのには思った以上に時間がかかります。
作中の会話で説明が無かった有名事件について
下宿の夕飯の席で話題になった「ギトー」とは、1882年1月25日に死刑が求刑された「ガーフィールド大統領の暗殺犯」のチャールズ・J・ギトーの事のようです。
ストーリー
小説の本筋は女友達のケイトから見せられた青い手紙の謎を探る話。
孤児だったケイトを育てた養父アイラが幼かったとき、アイラの父アンドリュー・カーモディが自室の机の前に座り拳銃自殺した。
その時、机の上にあったのが青い封筒と白い便箋で、『もし裁判所のカラーラについて討議することに興味がおありならば、来週木曜12時半、シティーホール・パークまでおいで下さい』と書かれていた。
その便箋の下に半分にはアンデョリュー・カーモディの遺書が殴り書きされている。
最初のタイムトラベルでは封筒の消印の「1880年1月23日午後6時」に「ニューヨーク中央郵便局」に誰が青い封筒を投函したのを確認した。
2回目のタイムトラベルでは投函した人物の暮らす下宿に自らも住み、ケイトの養父の父アンドリュー・カーモディとその人物が公園で密会しているのを盗み聞きした。
徐々に明らかになっていく自殺の謎と、プロジェクト内で起きるトラブル。
1901年のコロラド州デンバーにから帰還したメンバーが、帰還後のタイムパラドックスのテストで挙げた大学時代の僚友が現代のあらゆる記録の中から見つからなかった。
プロジェクトリーダーのダンジガー博士はプロジェクトの危険性から中止を提案するが、サイのタイムパラドックステストに異常がなかったことから、計画を続行したい軍の代表2人と大統領代理1人との投票に敗れ、プロジェクトを去る事になる。
サイが3度目のタイムトラベルから帰還すると。
プロジェクトの主導権は軍に移り、些細なタイムパラドックスより国家利益を追求する体制になり、サイ自身も決断を迫られる。
ふりだしに戻る:タイムトラベルの種類
タイムリープ型で超能力的に体ごと過去に移動します。
タイムパラドックスは作中で1人の人間が消える事体になりましたが、基本的に秘密裏の国家プロジェクトで慎重に行われているのでどの程度の影響があるのかは不明です。
博士が去った後のプロジェクトでは第二段階として故意に時間の流れを変更した場合、どんな影響が起きるのかを検証しようとしています。
ふりだしに戻る:まとめ
プロジェクトの性質が実権から国家利益に変化する中での主人公の葛藤と決断。
時間を超えたラブロマンスミステリー。
大作ではあるけど、挿入される写真資料の画質にバラつきが見られたり、その写真を使うために主人公にカメラを持たせて歩かせたシーンがあったりするのが、発表から約50年後のいま読むとテンポを悪くしてる感じがします。
「レベル3」「ゲイルズバーグの春を愛す」に続く、街と時間のノスタルジックファンタジー。
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