『愛の手紙』ジャック・フィニイ 福島正実@訳
由緒ある静かな街ゲイルズバーグに近代化の波が押し寄せる時、奇妙な事件が起こる……古く美しいものを破壊する“現実”を阻止する“過去”の不思議な力を描いた表題作他、骨董品の机の中にしまいこまれていた手紙が取り結ぶ、現代の青年とヴィクトリア朝期の乙女とのラブ・ロマンスを綴った「愛の手紙」など、甘く、せつなく、ホロ苦い物語の数々を、ファンタジイ界の第一人者がノスタルジックな旋律にのせて語る短編集
裏表紙 あらすじより
愛の手紙
The Love Letter
Jack Finney
愛の手紙:どんな話?
ブルックリンに住む24歳のジェイク・ブルクナップは古道具屋でヴィクトリア朝風の古い机を買った。
数ブロック先の中期ヴィクトリア風のお屋敷が取り壊されることになり、そこから古道具屋の主人が買い取って来たものだという。
夜、ジェイクが机の抽斗をなんとなく引き出してみると、机の奥行に対して抽斗の長さがやけに短い事に気づく。
机の奥を探ると、隠し抽斗を発見する。
中には古い便箋と封筒、インク瓶、ペンが入っていて、宛名の無い封筒の中に封がしてあるものを見つける。
手紙は1882年5月14日の日付があり、望まぬ結婚を強いられた娘 ヘレン・ウォーレンが、心の中の架空の人物に宛てて書かれたラブレターだった。
真夜中の特別な高揚感のある不思議な空気の中で、ジェイクは80年前のヘレンに宛てて手紙を書く。
抽斗の中にあった古い便箋に、古いペンとインクで。
むかし集めていた切手コレクションの中からその時代の切手を貼り、数ブロック先の古い屋敷まで行き、その住所を封筒の宛先に書く。
そしてブルックリンで一番古い準郵便局の一つ、ウィスター郵便局の古いポストへ投函した。
1週間後、残りの2つの抽斗の奥にも隠し抽斗があるのではと思いついたジェイクは、抽斗の一つを取り外してみる。
その奥にあった隠し抽斗の中には、第二の手紙が入っていた。
愛の手紙:面白かったところ
80年前の机、便箋、ペン、インク、封筒、切手、郵便局。
妙に凝ったジェイクの作法が、過去との文通を可能にするのがこの話のお洒落なところ。
道具立てが格好いい。
投函した古い郵便局についての噂話も、何十年も経ってから届けられた手紙の話だったり、ただの信書管理がなっていない郵便局なのに、時間を超える力を持った不思議な場所だから届くかもしれない、と考えるところが洒落ている。
フィニイらしさのある、ノスタルジックなファンタジー短編です。
愛の手紙:タイムトラベルの種類
机と郵便局を介しての往復書簡は極小サイズの「タイムトンネル型」になるかと思います。
タイムパラドックスがあったのかどうかも不明です。
愛の手紙:まとめ
- 現在と過去の80年の時を超えた往復書簡
- 洒落た小道具と舞台装置
「ゲイルズバーグの春を愛す」の感想で、この文庫本の表紙について
当時のゲイルズバーグの街並みじゃないかと書きましたが、
この表紙のイラストは「愛の手紙」のものだったようです。
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