タイムトラベルの本棚

タイムトラベルを題材とした小説、映画の感想

『スキップ』北村薫

昭和40年代の初め。わたし一之瀬真理子は17歳、千葉の海近くの女子高二年。それは九月、大雨で運動会の後半が中止になった夕方、わたしは家の八畳間で一人、レコードをかけ目を閉じたf:id:kei300509:20180515214214p:plain目覚めたのは桜木真理子42歳。夫と17歳の娘がいる高校の国語教師。わたしは一体どうなってしまったのか。独りぼっちだ  でも、わたしは進む。心が体を歩ませる。顔をあげ、≪わたし≫を生きていく。

 

裏表紙 あらすじより

 

 

1995年発表の長編小説。

『ターン』『リセット』を含む<時と人>三部作の一作目。

国語教師として埼玉県の高校の教壇に立つ傍ら、作家活動をする北村薫

高校生活を教員側から見た視線も新鮮です。

 

 

 

 

スキップ:はどんな話?

高校二年の体育祭。

女子高に通う≪わたし≫之瀬真理子は17歳。

クラスメイトや親友の池ちゃんと一緒に、仮装行列に使うガリバーのハリボテを作っていた。

去年は参加できなかったフォークダンスにも今年は参加するつもりでいた。

 

運動会当日は仮装行列が終わったあと、雨が降りだし、午後の種目もフォークダンスも中止になった。

 

秋の雨に濡れながら家に帰り、着替えてから、ステレオでモーツァルトのレコードをかけているとついウトウトとしてしまう。

 

目が覚めると、見知らぬ部屋の布団の中にいた。

服もいつの間にか別の物になっていて、恐る恐る見知らぬ家の中を探検していると、この家の人らしい女子高生が帰ってくる。

  あの」

「……やだ、びっくりさせないでよ」

「すみません。あの  教えてください。ここ、どなたのお宅なんですか」

「ふざけてるの?   お母さん」

 

一之瀬真理子は17歳の運動会の日の自宅から、一瞬で25年後の42歳桜木真理子の体にスキップしていた。

 

42歳の真理子は結婚していて、娘は17歳。

夫の桜木と娘の美也子に記憶喪失かと心配されるが、

台所に入っても、

家族の思い出話をされても、

両親がすでに亡くなっていることを知らされても、

千葉の実家の跡地を見に行っても

「桜木真理子」の記憶が戻ることはない。

 

 

しかも桜木真理子は高校のベテラン国語教師で今は春休み。

実力テストの問題を作らなければいけない。

 

どうすれば17歳の「一之瀬真理子」に戻れるのかはわからないが、

42歳の「桜木真理子」さんがしなければいけない事を≪わたし≫がやらなければ、と心に決める。

 

ゆったりしたテンポのタイムトラベル小説。

  

 

 

スキップ:面白かったところ

バレーボール大会の後の桜木さんと≪わたし≫の会話。

17、18歳の生徒たちと一緒に応援したバレーボール大会のコート。

試合の間、≪わたし≫の心は確かにコートの中にいた。

でも、一人で帰り道自転車を漕いでいると意地悪な何かが「違うぞ」「お前は≪そこ≫にはいなかった」と囁く。

 

≪そこ≫は≪17歳≫で、

≪17歳≫のバレーボール大会は人生で一度しかない。

 

バレーボール大会でなくても、同級生と一緒に何かに参加したとか、応援したとか

人生でその時だけ集まったメンバーで、

その時にしかできなかった経験をしたという経験がとでも大事だという事を思い知らされる。

 

17歳から42歳の体験が無い桜木真理子の喪失感と、それでも泣かない一之瀬真理子の強さが感じられ、桜木さんがそれを優しくフォローするシーンが、ドキっとする。

 

 

スキップ:タイムトラベルの種類

 同じ人間の身体に意識だけがタイムリープしてくる、「意識型」タイムリープ

タイムパラドックスはないが、記憶が抜けるので周囲との関わり方が難しくなる。

 

 

スキップ:まとめ

  1. 意識だけが未来の自分の体に跳躍する「意識型」タイムリープ
  2. 17歳の学校行事は一度きり
  3. 体は同じでも中身が変われば、周りの人間も変わっていく

 

いきなり年を取ったり、横から見たお腹がD字型になっていたら大変ですね。

鈴木光司『リング』では年老いた自分が出てくるのが恐怖でしたが、浦島太郎もそうか。

 

突然のタイムトラベル現象を解決するまで、とりあえず目の前にある現実に適応しようと奮闘する姿が瑞々しく描かれている小説です。

 

 

 

 

 

関連作品:北村薫 ≪時と人≫ 三部作

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