タイムトラベルの本棚

タイムトラベルを題材とした小説、映画の感想

『ここがウィネトカなら、きみはジュディ』F・M・バズビイ 室住信子@訳

男はいつもと違う色の天井の下で目覚めた。ここはウィネトカか? それとも……。人生を飛び飛びに生きる男女の奇妙な愛を描いた、SF史上に残る恋愛時間SFの表題作

 

裏表紙 あらすじ より一部抜粋

ここがウィネトカなら、きみはジュディ

 If This Is Winnetka,You Must Be Judy

  F.M.Busby

 

1974年発表。

2010年出版の大森望編アンソロジーに収録。それ以前は1987年の新潮社のアンソロジーに収録されていてなかなか読めなかった作品。

不思議なタイトルですが、話の内容もとても不思議な作品です。

 

 

ここがウィネトカなら、きみはジュディ:どんな話?

朝、目がさめて見上げた天井の色は灰緑色だった。

灰緑色の天井ってことは、ここはウィネトカ時代の家だろうか、ボストン時代だろうか。それともどっちでもない新しい部屋?

窓のシェードをあげ、外を見ると秋のウィネトカだ。

台所で朝食を作る音がする。ここがウィネトカだとすると、いま付き合っているのはジュディかダーリンどっちだ?

財布の中のカード、免許証の更新日を確認する。

よし、台所にいる君はジュディだ。

 

自分の人生を飛び飛びで暮らすラリイ・ガース。

人生のある期間を飛び飛びに過ごしている。

今回のウィネトカの期間はダーリンと離婚した直後、ジュディと結婚するまでの2ヵ月。

ラリイの人生は飛び飛びで、耄碌して死を迎える期間にスキップしたこともあるし、嬰児期にも2度スキップした。70歳の誕生日を祝ってもらった事もあるし、大学を飛び出したこともある。

 

ラリイは財布の中から(昨日まで居た)未来の自分が作ったカードを見つける。

そのカードには銀行の貸金庫の鍵が張り付けてあり、裏面にはスキップした順に期間がメモしてあった。

 

ここがウィネトカなら、きみはジュディ:面白かったところ(ネタバレあり)

前後する人生の中、ウィネトカの銀行で偶然エレーンと出会う。

エレーンもまた人生をスキップしている。

ラリイとエレーンはそれまでの人生を、前後の期間に不都合が無いように過ごしてきた。

貸金庫にあったリストにより、今後二人で一緒に過ごせる期間があまりない事を知る。

 

 

エレーンとラリイは一緒になる。

定められていたはずの人生から初めての逸脱。

  

スキップは止まらないものの、一度過ごした35歳からの人生はエレーンとの生活に書き換えられていく。

 

 

ラリイとエレーンは散々な人生の後に、10年間一緒になって幸せな最期を迎えることを体験していて、その為には50代中盤(ラリイ55歳、エレーン52歳)までの人生を、予め決められた通り逸脱する事なく過ごすのが絶対条件だと考えていたと思う。

そのレールから外れなければ、いずれ2人は逢えるのだから。

 

ところが、1970年ウィネトカの銀行で2人は逢ってしまう。

ラリイは35歳、エレーンはそれより2年と5ヶ月若い。

2人で過ごした10年のうち、半分以上の期間をすでに経験していた2人は、初めて円環を飛び出し一緒になる。

そして新しい未来が始まる。

 

定められたレールからの勇気ある逸脱が二人の人生を変える。

 

ちょっと不思議なタイムトラベルラブロマンスです。

 

 

ここがウィネトカなら、きみはジュディ:タイムトラベルの種類

 

一人の身体の中を意識だけが不規則に時間跳躍する「意識ループ型」

死んで最初からやり直すとかのループ系は結構あるが、不規則に人生を過ごすというアイディアは珍しい。

タイム・リープ あしたはきのう」も同じ系統

タイムパラドックスは起こる。

 

ここがウィネトカなら、きみはジュディ:まとめ 

  1. 不規則な意識型タイムトラベル
  2. 人生を不規則に生きる男のラブロマンス小説
  3. 一歩を踏み出す決断がすばらしい

アンソロジーのタイトルになっている短編小説。

 

あらゆる悪と災いを集めた“パンドラの箱”に最後に残っていたのは“希望”だった。“希望”が残っていたため、人類は絶望しないで生きることができた。

災厄を集めた箱に何故“希望”が入っていたんだろう……それは“希望”ではなく、“未来”だったんじゃないか、未来を知ってしまったら生きていくのはしんどい。

上遠野浩平ブギーポップ・イン・ザ・ミラー パンドラ』で読んだ覚えがあります。

 

予め未来を知っている人生は辛そうです。

ただ、逸脱しなければ約束された未来の家族との再会や生活が待っている。

確実な未来との永遠の別れを、敢えて選択する勇気。