『ターン』北村薫
真希は29歳の版画家。夏の午後、ダンプと衝突する。気がつくと、自宅の座椅子でまどろみから目覚める自分がいた。3時15分。いつも通りの家、いつも通りの外。が、この世界には真希一人のほか誰もいなかった。そしてどんな一日を過ごしても、定刻がくると一日前の座椅子に戻ってしまう。ターン。いつかは帰れるの? それともこのまま……だが150日を過ぎた午後、突然、電話が鳴った。
裏表紙 あらすじより
ターン:どんな話?
森真希は母と暮らす29歳。
短大卒業後に就職した会社が倒産し、市民グループで学んだ銅版画のメゾチンドで版画作品を作っている。
短大時代からの友達、正宗ゆかりが週2回主宰する子供向け美術教室の手伝いをしているのが唯一の安定収入。
7月のある日、教室で作るダンボールロボットの材料を家具屋さんから分けて貰い、自分の軽自動車に積み込む。
国道に出て右折車線に入る。
すぐ前の車が後方確認なしで急に右折車線に飛び込んでくる。
ぶつかるっと思った時、後部座席の窓に揺れる「赤ん坊が乗っています」の文字が見えた。
ハンドルを右に切ってブレーキを踏む。
わずかに対向車線に出た時、左折してきたダンプの若い運転手の驚いた顔が見える。
気が付いたら体が逆さまになり、鉄の味がする。
意識がふっとなくなる。
真希は家の座椅子の上で目を覚ます。
1日前に来てたお気に入りのTシャツを着て、読んでいた本は手からこぼれて床に転がっている。
交通事故の夢を見たのかな。
庭に自分の軽自動車が止めてある。
壊れてはいない。
母の会社に電話をするが誰も出ない。
自転車で図書館に行くと、駐車場は車で一杯なのに誰もいない。
事務室の机の上にあったカップの紅茶はまだ温かい。
書架室の机の上には勉強道具が広げてあった。
幽霊船のように、たった今までそこに人がいて、みんな一斉に消えたような感じだ。
商店街にも誰もいない。
開かずの踏切は電車が来ないので開きっぱなし。
自分以外の人や生き物が誰もいない世界に独りぼっち。
翌日、隣り二軒にお邪魔し、生ごみを穴を掘って埋める。
午後、作りかけの版画の事を思い出し、夢の中で描いたスケッチブックの下絵を見ると消えていた。
新しいアイディアが浮かび、版とスクレーバーを取りに二階の自分の部屋に行った後、階段から落ちて足を骨折してしまう。
医者もいない世界で苦痛に動けない。
午後3時15分。交通事故が起きた時間。
気がつくと座椅子の上に戻っていた。
足の痛みも無くなっている。
着ていた服も事故の前日と同じものだ。
永遠に繰り返す孤独な夏。
151日目
郵便局でハーブのカタログを見た翌日、真希はホームセンターにハーブを見に行き、ホースと如雨露の口を買う。
庭木にたくさんのホースを固定し150日の日照りの世界に雨を降らせていると、家の電話が鳴り出した。
ターン:面白かったところ(ネタバレあり)
怪我も消えるが、下絵も消える。
無人島で暮らすロビンソン・クルーソーと自分を重ねるが、日記も書けないので、せめて昨日と同じことをしないようにしようと思う真希だけど、150日も過ぎるとどんどん無気力になってくる。
時間の無限ループの中で終わりが見えない状況が心を蝕んでいく様子が読んでるこっちまで不安にさせる。
初めて読んだときは、電話の主、イラストレーターの泉洋平が彫刻家ロダンとカミーユの話、リストの弟子の話がスラスラ出て来てカッコイイ大人だなと思った。
ターンの終わり方がちょっと良くわからなかったけど、いま改めて読むと、自分が昏睡状態なのを知った上で自分と向き合ったから戻れたんんだと納得できた気がする。
動物がいない世界で、時間の象徴である花。花の命は短い。
最初は庭の花の描写もあったが、繰り返す1日が続くと、徐々に真希の意識の中に入らなくなったのか庭の描写が無くなって行った。
それが最後の最後で目に飛び込んできて、そして花を摘む。
普通の時間の中でするように、摘んだ花がきれいに咲いているうちに版画にする事で「“くるりん”とした時間から抜け出すんだ」という強い決意をした。
時間を取り戻す事で、ターンは終わる。
ターン:タイムトラベルの種類
時間ループ型のタイムリープです。
何度も同じ時間や人生を繰り返すため、登場人物の心は徒労感に蝕まれていきます。
ターン:まとめ
- 時間ループ型のタイムトラベル小説
- 延々と繰り返される同じ1日から抜け出す方法が予想外
関連作品:北村薫 ≪時と人≫ 三部作