『夏への扉』ロバート・A・ハインライン 福島正実@訳
ぼくの飼っている猫のピートは、冬になるときまって夏への扉を探しはじめる。家にあるいくつものドアのどれかひとつが、夏に通じていると固く信じているのだ。1970年12月3日、かくいうぼくも、夏への扉を探していた。最愛の恋人に裏切られ、生命から二番目に大切な発明までだましとられたぼくの心は、12月の空同様に凍りついていたのだ! そんな時、<冷凍睡眠保険>のネオンサインにひきよせられて……永遠の名作。
裏表紙あらすじより
The Door Into Summer
Robert A.Heinlein
1957年発表。
日本では3人方が翻訳されていますが、今回紹介するのは一番有名な早川書房から1979年に出版された福島正実訳のものです。
2014年SFマガジン7月号の「オールタイム・ベスト」(読者投票)海外長編部門では9位に選ばれました。
「猫小説」「ロマンティックなラブロマンス」とも称される、タイムトラベル小説の代表作です。
- 夏への扉:どんな話?
- 夏への扉:面白かったところ
- 夏への扉:タイムトラベルの種類
- 夏への扉:まとめ
- 新訳「夏への扉」 小尾芙佐@訳
- 山下達郎「夏への扉」(THE DOOR INTO SUMMER)
- NHK-FM青春アドベンチャー
夏への扉:どんな話?
ダンことダニエル・ブーン・デイヴィスは『六週間戦争』(作中に起きた架空の核戦争)の時に軍の技術士官だった技術者にして発明家。
軍人時代の親友マイルズ・ジェントリーと共に家庭用自動機械を作る会社を興しました。
軍事機密の技術は特許取得をしないことから、家庭用機械に転用できる部分を拝借してルンバのような掃除機「文化女中器」(もしくは「おそうじガール」)を発明します。
製品開発に非凡な才能のあるダンと経営者能力があって法律家のマイルズのコンビは、「文化女中器」が売れ出すと書類の山にてんてこ舞いになります。
そこに登場したのが経歴不詳の美人敏腕経理ベル・S・ダーキン。
ダンとベルは婚約しますが、ベルは婚約指輪は受け取ってくれません。代わりにダンが保有している会社の株をベルに渡す事にします。
そして1970年11月18日。
ダンは株主総会でマイルズとベルに会社から追い出されます。
「文化女中器」も「窓拭きウィリイ」の特許も奪われ、開発中だった「万能フランク」の試作品と設計図も奪われてしまったのです。
マイルズとベルは周到に準備していたようで、弁護士に相談しても勝てる見込みは殆んどなく、物語の冒頭の1970年12月3日までダンはホテルを転々としつつ飲んだくれてて常時二日酔いの状態でやさぐれています。
そんなダンの目に飛び込んできたのが<冷凍睡眠保険>のネオンサイン。
酔っぱらっていたダンは、30年後の年を取ったベルの前に、30年前の若い姿のまま現れる復習を思いつきますが・・・
夏への扉:面白かったところ
- 武闘派ネコと技術者主人のコンビ
- タイムトラベルと地球の「公転」「自転」への言及(結論は有耶無耶)
- レオナルド・ダ・ビンチの秘密
- 金(ゴールド)の価値の暴落
- 自動お掃除ロボット
- 半自動製図機
ダンが飼っている猫のペトロニウス(ピート)9歳は近所の野良猫と血で血を洗う抗争を繰り返す武闘派。人間で言えば52歳の老猫?
対するダンは荒事はてんでダメなギーク気質の技術者。
マイルズに「この頃はジュードーも習ってるんだ」と脅し文句を言ってみるも、習ってない。
ギークのダンと武闘派の老猫ピートがお互いを補い合ういいコンビでした。
夏への扉:タイムトラベルの種類
タイムマシンを使った機械的タイムトラベルです。
タイムパラドックスは無さそう。もしくは時間の弾力性がなんとかしているようです。
会社を選ぶ際の選択理由が「未来ではこの会社だったから」で決めたという場面があって、すべてがあらかじめ決められている世界のようではありました。
夏への扉:まとめ
- 機械的タイムトラベル
- たたかう猫小説
- 「“夏への”扉」なので夏の話ではない。心が冬。
新訳「夏への扉」 小尾芙佐@訳
「夏への扉」の日本語訳は福島正美がスタンダードですが、2009年出版で小尾芙佐訳の新訳版もあります。
新訳版は単行本なので1,200円と文庫本より500円近く高いですが、現代風に翻訳されていて読み易いのでこれから読む方には新訳版の方がお薦めです。
「文化女中器」が「おそうじガール」になっていたり、福島訳のひっかかる部分が解消されてる感じです。
山下達郎「夏への扉」(THE DOOR INTO SUMMER)
アルバム「RIDE ON TIME」に収録されているこの曲、もともとは難波弘之さんという方へ楽曲提供したものをセルフカバーしたそうです。
「夏への扉」のストーリーを元に作詞されているので小説を読み終わってから聴くといい読後感が得られます。
NHK-FM青春アドベンチャー
「青春アドベンチャー」は製品化されていないようです。
「夏への扉」の他にも「リプレイ」とか名作タイムトラベル作品があるので、もし再放送があればまた聴きたいと思います。